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※ (『きんのかんむり』というお話の続編になります)
スーパーの前、見知った男がしゃがみ込んでいるのが眼に入った。
広い肩幅。春の午後の陽射しを受けて光る、少し乱れた金髪。
まだ遠くからだったが一目見て、すぐに誰かわかった。
渋いピンクのシャツの背中。
少し派手ではと尻込みするのを絶対に似合うと、そのシャツを選んだのは他ならぬオレ。
帰宅を急いでいた足を止め、様子を伺う。
店に出入りする奥様方の熱いんだかなんだかな視線にはまったく頓着せず、男は座り込んだまま、時折首を傾げている。
アンタ一体何をしているんだ…。
更に数歩近づいて合点がいった。
男の前には柴犬の子犬が繋がれていた。
男は…そいつの名前はバッシュなんだが、いや、犬じゃない、男の方。
男の名前だ。バッシュ・フォン・ローゼンバーグ。37歳。無職になってもうじき1年。
とにかくバッシュは、じっと子犬の眼を見つめ、声には出さず唇だけを動かし短い言葉を犬に掛けている。
子犬が首を傾げると自分も同じ方向に首を傾けているのに、多分本人は気づいていないんだろう。
そのうちに、警戒心を解いた子犬が一歩丸い足を踏み出すと、バッシュの下唇がきゅっと横に引き攣った。
知っている、あの顔は相当嬉しい時の顔だ。
このおっさんは、急に自分の頭を撫ぜたり無理やりお手をさせない奴だと安心したらしく、子犬はバッシュの廻りをくんくんと嗅ぎ回り始め、
その間バッシュは根気よく、掌を子犬に向けて好きにさせていた。
子犬がバッシュの顔を見上げる。
バッシュの目尻が下がる。
バッシュの膝の間に子犬が潜り込んで初めて、バッシュはその大きな手で子犬を撫ぜた。
子犬はこの優しいおっさんが気にいったらしく、短い尻尾をぶんぶん振り回し、バッシュの膝に乗り上げている。
おいおい、そこはオレの指定席なんだが。
近くの公園からだろう、時折散り遅れた桜の花びらがふわふわとオレとバッシュの間に舞う。
一枚の花びらがバッシュの広い肩に留まる。
おいおい、そこもオレの指定席…と思い掛けて、止めた。
幾ら何でも、花びらにまで嫉妬するなんて、それじゃ格好悪すぎるだろ。
「モテてるじゃないか」
後ろから声を掛けると、バッシュはこちらを振り向きもせず「キミ程ではない」と素っ気ない。
立つ気配も見せず子犬とじゃれついている。
オレも一緒に横にしゃがむと、子犬はオレに飛びついて顔中を舐め始めた。
「なんだよ、くすぐったいって。ほんと元気だな、お前」
「何故だ?!
わたしと仲良くなるのにはずいぶん時間が掛かったのに。
今来たキミにはこんなにすぐ懐くなんて…」
「さぁ?良い人間がわかるんだよな?よしよーし」
なんてオレは笑いを堪えながら子犬を抱いた。
こいつが実はご近所さんの犬で、オレは飼い主と何回か立ち話をした事があるのは伏せておく。
「なるほど。
子犬もキミの魅力がすぐわかるという訳か」
若干だが刺のある物言いでバッシュが立ち上がる。
いつもより一層低い声。バッシュが嫌味を言うのは珍しい。
黙って見上げるオレの腕から子犬が飛び出して行く。
買い物を終えた飼い主が、店から出てきた。
あら、遊んでもらってたの?良かったわね~、と笑顔の飼い主がリードを解くのを
オレは愛想良く手伝って、もう一度しゃがんで犬の頭を思いっ切り撫ぜてやる。
飼い主は上品なおばあちゃんで、オレにもバッシュにも丁寧にお辞儀をして犬を連れて去って行った。
「オレ達も帰るか。
あ~、アンタもしかしてこれから買い物?」
返事はない。
何気ない素振りで立ち上がったオレを、バッシュは動こうともせずに眉を顰めて見つめている。
こんな時は、無理に話をしても話をさせようとしても無駄な事をこの1年でオレは学んだ。
しょうがない。あの手でいくか。
オレも黙って眼を伏せて、数回瞬きをした後バッシュのシャツの袖をそっと引いた所で
「その手には乗らないぞ。
歳の差を利用して甘えるのは卑怯だ」
と、幾分困ったような顔と声が返って来た。
昔から、バッシュがこの手に乗らなかった事はない。
(後編に続きます)
ご無沙汰してましたOTONAです。
長過ぎ & もう2時半 なので後編は後日とさせて頂きます。
へぼ文なのに勿体つけてごめんなさい。
めるのお返事もさっぱりしとらんですごめんなさい。
今週から仕事Bが始まります…。
泣いていいですか?つか既に大泣き。